介護職のベテランが教えてくれた、「いい人生」の終わり方
介護の仕事は、人の人生の最期に立ち会うことでもあります。
私には、忘れられないベテラン介護士の先輩がいます。その先輩は、まるで利用者さん一人ひとりの人生を、そっと見守るかのように接していました。ある日、私は「人が『いい人生だった』と思うのは、どんなときなのでしょうか?」と尋ねてみました。
先輩は少し考えた後、静かに、そして力強くこう教えてくれました。
「それはね、後悔が少ない人よ」
その言葉は、私の胸に深く響きました。そして、先輩の毎日の関わりの中に、その答えがあることを知りました。
1. 「やりたかったこと」を諦めない
先輩が担当していたある利用者さんは、若い頃から絵を描くことが好きでした。病気で手が震えるようになっても、先輩は「絵を描きましょう」とスケッチブックを渡しました。最初は戸惑っていた利用者さんも、少しずつ筆を動かすようになり、最後には笑顔で「ありがとう」と言ってくれました。
介護は、できないことを補うだけではありません。「やりたい」という気持ちを尊重し、その人らしさを最後まで引き出す手伝いをすること。それは、後悔を残さないための大切な一歩なのです。
2. 大切な人とのつながりを最期まで
「もう、家族には迷惑をかけたくない」と、面会を拒む利用者さんも少なくありません。しかし、先輩はいつも、ご家族との交流を促していました。
オンライン面会を提案したり、思い出の写真を飾ったり。ある利用者さんが亡くなられた後、ご家族は「最期まで父と話ができてよかった」と涙ながらに感謝を伝えてくれました。
人間は、誰かとつながっていると感じるときに、安心します。それは人生の最期も同じです。大切な人とのつながりを守ることは、その人の心の平穏を守ることにもつながるのです。
3. 「ありがとう」と「ごめんなさい」を素直に
先輩は、利用者さんが何かをしてくれたとき、どんなに小さなことでも「ありがとう」と伝えていました。また、自分のミスには素直に「ごめんなさい」と謝っていました。
「言葉にすること」の大切さを、先輩は教えてくれました。それは、最期の時間を後悔なく生きるための、一番シンプルな方法なのかもしれません。
「いい人生」の終わり方は、生き方そのもの
先輩の言葉から私が学んだのは、「いい人生」の終わり方は、特別なことではないということです。それは、**「後悔を残さないように、一日一日を大切に生きる」**こと。
介護の仕事は、人の人生の最期に深く関わります。それは、私たち自身の人生を考える貴重な機会でもあります。先輩が教えてくれた「いい人生」の終わり方を胸に、私もまた、利用者さんの人生に寄り添っていきたいと思っています。